
ネッシーの写真、ビッグフットの足跡、イエティの毛――。未確認生物の話には、単なる目撃談を超えて「証拠」と呼ばれるものがたびたび登場します。しかし、その証拠は実際にどこまで科学的に調べられ、調査後には何が残っているのでしょうか。
ロザニカでは今回、世界各地で未確認生物として語られてきた候補16種について、目撃、写真、映像・音声、足跡、毛・組織、死骸・標本、DNA分析の有無を共通項目としてデータ化しました。さらに、「証拠が提出されたこと」と「科学的に調べた結果、何だったのか」を分けて分類しています。
その結果、毛・組織・死骸・DNAなどの生物学的な物証まで確認できたのは16種中6種でした。そして今回追跡できた範囲では、その6種で検証された物証はいずれも既知の動物に行き着いていました。一方、現在も「謎」として残る対象の多くは、科学的に調べても正体が分からなかったというより、そもそも分析可能な物証まで到達していませんでした。
この記事では「未確認生物はいるのか」という二択ではなく、どんな証拠が残り、それを科学的に調べると何が分かったのかを16種のデータから見ていきます。
「未確認生物の証拠」は、どこから証拠と呼べるのか
未確認生物を比較するとき、最初に問題になるのが「証拠」という言葉です。数十人の目撃証言、ぼやけた写真、巨大な足跡、採取された毛、DNA分析済みの組織は、すべて同じ意味での証拠ではありません。さらに、DNAが分析されたからといって、その結果が未知の動物を示しているとも限りません。
そこで今回の調査では、まず「提出された証拠」を、伝承・目撃、写真、映像・音声、足跡などの痕跡、毛・皮膚などの生物試料、死骸・骨・標本、DNA・遺伝学的分析に分類しました。そのうえで科学的検証の結果を、「検証を確認できず」「判定不能」「既知動物由来」「未知動物を支持するには不十分」「未知分類群を支持する結果あり」などに分けています。つまり、証拠の見た目の強さと、その証拠を調べた結果を別々に記録したということです。
これは実際の研究を見ると重要だと分かります。2014年、Sykesらはイエティやビッグフットなどに由来するとされた毛を系統的に調査し、DNA配列を取得できた30試料を分析しました。大部分はクマ、ウシ、ウマ、アライグマなど既知の哺乳類に一致しました。一方で、この研究結果だけからイエティやビッグフットそのものが「存在しない」と証明されたわけではありません。研究が判定したのは、あくまで提出された試料の由来です[1]。
表1:今回の「証拠」と「検証結果」の分類
| 区分 | 内容 |
|---|---|
| E1 | 目撃証言 |
| E2 | 写真 |
| E3 | 映像・音声 |
| E4 | 足跡・巣・歯型などの痕跡 |
| E5 | 毛・皮膚・組織などの生物試料 |
| E6 | 死骸・骨・標本 |
| E7 | DNA・遺伝学的分析 |
| V0 | 科学的検証を今回確認できず |
| V1 | 検証されたが判定不能 |
| V2 | 検証した物証が既知動物由来と判明 |
| V3 | 未同定・仮説は残るが未知動物を支持するには不十分 |
| V4 | 未知分類群を支持する科学的結果あり |
※複数の証拠カテゴリーに該当する場合があります。V0は「科学的証拠が世界のどこにも存在しない」という意味ではなく、今回確認した資料の範囲で検証を追跡できなかったことを示します。
16種を並べると、目撃談から物証へ進むほど件数は減った
今回採用した16種のうち、目撃証言を確認できたのは15種でした。ところが、証拠をより物理的なものに限定すると数は減ります。写真は4種、映像・音声は3種、足跡などの痕跡は4種、毛や皮膚などの生物試料は4種でした。DNA・遺伝学的分析まで追跡できたのは5種です。
ここから分かるのは、「未確認生物には証拠がない」という単純な話ではありません。目撃談や写真、足跡まで含めれば証拠と呼ばれているものは多数あります。しかし、研究室に持ち込んで種を同定できるような物証になると一気に少なくなるという構造が見えてきました。
図1:未確認生物16種で確認できた「証拠」の種類

実際、米ウェストバージニア州のモスマンでは1966年から約1年間に26件の目撃が記録されていますが、今回の調査ではDNAや標本といった生物学的試料の科学的検証までは確認できませんでした[7]。日本のヒバゴンも、広島県西城町周辺で1970年夏に複数の目撃が報告された記録は残る一方、今回確認できた資料では未知動物を判定できる試料分析には到達していません[11]。
DNAや死骸まで残った6種では、検証された物証はすべて既知動物だった
今回の16種で、毛・組織・骨・死骸・DNAなど、生物そのものに由来するとされた物証まで確認できたのは、イエティ、ビッグフット、アルマスティ、オラン・ペンデク、チュパカブラ、バニップの6種でした。
この6種について、今回追跡できた最も強い科学的検証結果を比較すると、6種すべてで検証対象となった物証は既知の動物に帰着しました。特にイエティ、ビッグフット、アルマスティ、オラン・ペンデクについては、Sykesらの2014年の研究で同じ方法によるDNA分析が行われています[1]。ただし、これは「6つの独立研究がすべて同じ結果を再現した」という意味ではありません。4種は同一研究に含まれているため、対象数と独立研究数を混同しない必要があります。
イエティについてはさらに研究が進んでいます。2014年の研究ではヒマラヤの2試料が古いホッキョクグマの配列と近いという結果が注目されましたが、その解釈には異論も出ました。2017年、Lanらがイエティ由来とされたものを含む24の毛、骨、皮膚、糞などをより詳しく分析したところ、イエティとされた試料はヒマラヤヒグマ、チベットヒグマ、ツキノワグマなど現生のクマ類に位置づけられました。研究者らは、イエティ伝承の生物学的背景として当地のクマが強く支持されると結論づけています[2]。
チュパカブラでも似た構図が見られます。テキサス州でチュパカブラではないかと注目された死骸は、Texas State UniversityのDNA検査でコヨーテと判定されました。またTexas A&M AgriLifeは、灰色で鱗状に見える皮膚や背中の隆起といった「チュパカブラらしい」特徴について、重度の疥癬を患ったコヨーテなどで説明できるとしています[4][5]。
バニップにはさらに古い例があります。1840年代に「バニップの頭骨」として大きな注目を集めた標本は、自然史研究者による検討で、若いウマに近い特徴を持つことが指摘されました。Australian Museumの資料では、バニップとして展示された頭骨が奇形のウマ胎児だったとされた経緯も記録されています[6]。
図2:生物学的物証まで確認できた6種と検証結果
| 未確認生物 | 今回確認した主な物証 | 検証された物証の主な結果 |
|---|---|---|
| イエティ | 毛・皮膚・骨・DNA | ヒグマ |
| ビッグフット | 毛・DNA | アライグマ、ヒツジ、アメリカクロクマなど |
| アルマスティ | 毛・DNA | ヒグマ、ウマ、ウシなど |
| オラン・ペンデク | 毛・DNA | マレーバク |
| チュパカブラ | 死骸・組織・DNA | コヨーテ等 |
| バニップ | 頭骨 | ウマ類と判断された標本 |
今回の範囲では、DNA分析まで確認できた5種のうち、未知分類群を支持する検証結果を確認できたものは0種でした。
では「まだ謎」の未確認生物には、何が残っているのか
ここまでを見ると、物証が提出された未確認生物はすべて解決済みに思えるかもしれません。しかし、残りの事例を調べると「謎が残る」の意味にはかなり違いがあります。
ネス湖の怪物は、科学者がほとんど調べていない対象ではありません。2019年にUniversity of Otagoの研究チームはネス湖の各地点・水深から250の水試料を採取し、環境DNAを解析しました。首長竜や大型の未知脊椎動物を直接支持する証拠は得られず、ウナギのDNAは大量に検出されました。ただし、環境DNAだけでは個体の大きさまでは判断できないため、「巨大なウナギ」という可能性まで検証したわけではありません[3]。
一方、Champ、モスマン、ヒバゴン、ジャージー・デビルなどは状況が異なります。たとえばChampには1977年のMansi写真があり、長年分析対象になってきましたが、写真に写った物体の大きさや距離を確定するための情報が不足し、流木など複数の説明が提示されています。つまり「科学的に調べても未知生物だった」というより、残された資料だけでは対象を一意に判定できない事例です。
さらに、モンゴリアン・デス・ワームでは状況がもっと手前です。探検家ロイ・チャップマン・アンドリュースが1926年に出版した記録をたどると、伝承を語った人々自身も実物を目撃したわけではないという形で西洋圏へ紹介されました。つまり、一見すると同じ「未確認生物」でも、DNA分析まで行われたイエティと、伝聞が中心のデス・ワームでは、証拠の段階がまったく違います[12]。
今回調査した16種の証拠データ
| 対象 | 主な地域 | 今回確認した主な証拠 | 検証結果 |
|---|---|---|---|
| イエティ | ヒマラヤ | 目撃・痕跡・試料・標本・DNA | ヒグマ |
| ビッグフット | 北米 | 目撃・痕跡・毛・DNA | アライグマ、ヒツジ、アメリカクロクマなど |
| アルマスティ | 中央アジア周辺 | 目撃・毛・DNA | ヒグマ、ウマ、ウシなど |
| オラン・ペンデク | スマトラ | 目撃・痕跡・毛・DNA | マレーバク |
| ネス湖の怪物 | スコットランド | 目撃・写真・映像等・eDNA調査 | 未知動物を支持する決定的結果なし |
| チュパカブラ | 米州 | 目撃・写真・映像・死骸・DNA | コヨーテ等 |
| モケーレ・ムベンベ | コンゴ盆地 | 目撃・写真主張・音声主張 | 未知動物を支持するには不十分 |
| モスマン | 米国 | 目撃 | 科学的検証を今回確認できず |
| ジャージー・デビル | 米国 | 伝承・目撃 | 科学的検証を今回確認できず |
| バニップ | オーストラリア | 目撃・頭骨 | 若いウマ/ウマ胎児とみられる標本 |
| マピングアリ | アマゾン | 伝承・目撃 | 科学的検証を今回確認できず |
| ヒバゴン | 日本 | 目撃 | 科学的検証を今回確認できず |
| Champ | シャンプレーン湖 | 目撃・写真 | 判定不能 |
| 野人(Yeren) | 中国 | 目撃 | 科学的検証を今回確認できず |
| Yowie | オーストラリア | 目撃・足跡主張 | 科学的検証を今回確認できず |
| モンゴリアン・デス・ワーム | モンゴル | 伝承・伝聞 | 科学的検証を今回確認できず |
※ジャージー・デビルについてはニュージャージー州政府も地域伝承として紹介しています[8]。マピングアリについては、アマゾン先住民の伝承、民俗学、巨大地上性ナマケモノとの関連仮説などを扱った学術研究がありますが、これは未知動物の実在を実証した研究ではありません[9]。中国の野人についても、科学史研究では目撃談と科学・大衆文化の関係そのものが研究対象になっています[10]。
「証拠がない」のではなく、検証できる段階まで残るかどうかが分かれ目だった
今回の16種を、毛・組織・死骸・骨・DNAなどの「分析可能な生物学的物証があったか」で分けると、結果ははっきり分かれました。生物学的物証まで確認できたのは6種で、今回追跡した検証済み物証はいずれも既知動物に帰着しました。一方、生物学的物証まで確認できなかった10種では、7種で同等の科学的検証そのものを確認できず、1種は資料不足などから判定不能、2種は調査されているものの未知動物を支持するには不十分でした。
ここから「未確認生物は存在しない」と結論することはできません。ある毛がクマだったからといって、イエティという存在について考え得るすべての仮説が否定されるわけではないからです。同様に、今回科学的検証を確認できなかった対象について、「証拠が世界のどこにも存在しない」と断言することもできません。
今回のデータから確認できたのは、もう少し限定された構造です。目撃や写真の段階では謎は長く残りやすい。一方、毛・骨・組織・DNAのように既存種と比較できる物証が手に入ると、その物証については具体的な同定が進む。 今回調べた16種では、実際にその方向が明瞭に現れました。
未確認生物を見るとき、「証拠があるか、ないか」だけでは実態を捉えにくいのかもしれません。重要なのは、何が証拠として提出され、その証拠がどこまで検証可能で、検証後に何が残ったのかを分けて見ることです。
参考文献
[1] Sykes BC, Mullis RA, Hagenmuller C, et al. Genetic analysis of hair samples attributed to yeti, bigfoot and other anomalous primates. Proceedings of the Royal Society B. 2014;281:20140161. DOI: 10.1098/rspb.2014.0161.
[2] Lan T, Gill S, Bellemain E, et al. Evolutionary history of enigmatic bears in the Tibetan Plateau–Himalaya region and the identity of the yeti. Proceedings of the Royal Society B. 2017;284:20171804. DOI: 10.1098/rspb.2017.1804.
[3] University of Otago. First eDNA Study Of Loch Ness Points To Something Fishy. 2019.
[4] Texas State University. Chupacabra — it’s a coyote. From the Hill.
[5] Tomeček JM, Henke S, Hensley T. ¡El Chupacabra! The Science Behind a Latin American Mystery. Texas A&M AgriLife Extension. 2017.
[6] Holland J. On the Trail of a Bunyip. Australian Museum / Macleay Museum archival material.
[7] West Virginia Encyclopedia. Mothman.
[8] State of New Jersey. New Jersey Devil.
[9] Vander Velden FF. Reality, science and fantasy in the controversies about the Mapinguari in southwestern Amazonia. Boletim do Museu Paraense Emílio Goeldi. Ciências Humanas. 2016;11(1):209–224. DOI: 10.1590/1981.81222016000100011.
[10] Schmalzer S. “From Legend to Science,” and Back Again? Bigfoot, Science, and the People in Post-Máo China. In: The People’s Peking Man. University of Chicago Press. 2008.
[11] 庄原観光ナビ. 「ヒバゴン~実在した、謎の類人猿~」.
[12] Andrews RC. On the Trail of Ancient Man: A Narrative of the Field Work of the Central Asiatic Expeditions. G. P. Putnam’s Sons. 1926.
