【コラム】技術は「壊れないこと」より、「壊れたときに困らないこと」の方が大切という話

こんにちは。ロザニカで技術・工学を担当している相原航です。普段はロボットや新素材、建築、未来技術などの最新ニュースを見ていますが、性能の数字と同じくらい気になるのが、「もしこれが壊れたら、どうなるのだろう」という部分です。

技術系の記事では、「耐久性が向上した」「故障率を下げた」「長寿命になった」といった言葉をよく目にします。もちろん、壊れにくくすることは大切です。ただ、現実に使うことを考えるほど、壊れることを完全に防ぐより、壊れたあとに何が起きるかを設計しておくことが重要になってきます。

「絶対に壊れない」を目指すだけでは足りない

どれだけ丁寧に作られた機械でも、部品の劣化、製造上のばらつき、想定外の環境、操作ミスなど、故障につながる要因を完全になくすのは簡単ではありません。だから工学では、「壊さない」だけでなく、故障が起きることを前提に、その影響をどこまで小さくできるかも考えます。

航空機のシステム設計は、その考え方が分かりやすい例です。FAA(米連邦航空局)の大型航空機向けガイダンスでは、単一の要素が故障しても壊滅的な結果につながらないことを前提とし、バックアップ系統、システム同士の分離、故障の検知、故障後の対応などを組み合わせる「フェイルセーフ」の考え方が示されています。つまり、「部品を絶対に壊れなくする」だけで安全を作っているわけではないのです。

私はこの考え方が、航空機のような特殊な技術だけに当てはまるものだとは思っていません。ロボットでも自動車でも建築物でも、新しい技術の記事を見るときに、「故障する確率は低いらしい」で読み終わりません。その先を見ると、その技術がどれくらい現実を想定しているのかが見えやすくなります。

「壊れたあと」の4段階

新しい技術を評価するとき、私は故障そのものよりも、その後の流れを見ます。細かな項目は技術によって変わりますが、一般の読者でも使いやすいように整理するなら、次の4つです。

  1. 気づけるか――故障や異常を自分で検知できるか。
  2. 安全に止まれるか――異常が起きた瞬間、危険な動きをせず停止・縮退できるか。
  3. 広げないか――一つの故障が別の部品やシステム全体まで巻き込まないか。
  4. 戻せるか――修理、交換、再起動などによって現実的な時間と費用で復旧できるか。

この順番で考えると、「耐久性○倍」という一つの数字だけでは分からなかった部分が見えてきます。故障しにくくても、壊れた瞬間に制御不能になるなら用途によっては使いにくいでしょう。逆に一定の頻度で部品交換が必要でも、異常をすぐ検知でき、安全に停止し、短時間で交換できるなら、実用品として成立するかもしれません。

ここで大事なのは、「壊れる技術はダメ」という話ではないことです。私が知りたいのは、「壊れたときまで含めて考えられているか」なのです。

自動運転では、「故障しない」より「どう止まるか」が見えてくる

自動運転を例にすると、この違いはかなり分かりやすいと思います。センサーやコンピューターの精度がどれだけ高くても、それだけでは実際の道路を安全に走れるとは判断できません。カメラが見えなくなったらどうするのか。システム自身が正常に判断できない状態になったらどうするのか。そこまで含めて初めて、現実の道路で使う技術として考えられます。

NHTSA(米道路交通安全局)が自動運転システムについて示している安全要素にも、「Fall Back(Minimal Risk Condition)」があります。システムが故障したり、本来想定していた動作条件から外れたりした場合に、問題を検知し、可能な限りリスクの小さい状態へ移行するという考え方です。安全に停止することも、その選択肢の一つとして挙げられています。

ここを見ると、技術ニュースへの質問も少し変わります。「自動運転の精度は何%か」だけではなく、「判断できなくなったとき、この車は何をするのか」と聞けるようになります。私は、その質問に答えられるかどうかをかなり重視します。

建物も、「一カ所が壊れたら全部終わり」では困る

同じ考え方は、もっと巨大なものにもあります。建物では、ある柱や部材に損傷が起きたとき、その局所的な損傷が次々と別の部分へ伝わり、広い範囲の崩壊につながる「進行性崩壊」が問題になります。

NIST(米国立標準技術研究所)がまとめた資料では、そのリスクを下げる方法として、重要な部材を失った場合でも荷重を別の経路へ流せる「代替荷重経路」や、構造の連続性・冗長性を持たせる考え方などが扱われています。

私はこの考え方が面白いと思っています。強い建物というと、「とにかく太く、硬く、壊れないもの」を想像しがちです。しかし実際には、一部に問題が起きても、それが全体の致命傷にならないことも強さの一部です。技術の優秀さは、正常に動いている瞬間だけを見ても分かりません。

「バックアップを増やせばいい」というわけでもない

ここまで読むと、「それなら何でも二重、三重にすれば安全なのでは」と思うかもしれません。しかし、ここにも工学らしいトレードオフがあります。バックアップ装置を増やせば、重量、部品数、配線、消費電力、保守箇所、そしてコストも増えます。

さらに、予備装置を用意していても、主系統と同じ原因で一緒に止まってしまえば意味がありません。そのため航空機のフェイルセーフ設計でも、単なる冗長化だけでなく、系統の分離や故障の検知など複数の方法を組み合わせる考え方が採られています。

どんな故障を想定し、どこまでなら許容し、何を守るためにどれだけの重量やコストを払うのか。そのバランスまで含めて設計する必要があります。

次に技術ニュースを見たら、「故障率」の次を見てみる

たとえば次に、「従来より故障率を50%低減」「耐久寿命が2倍」「過酷な環境でも動作」といったニュースを見たとします。その数字自体は重要です。ただ、私はそこで読み終わらず、「では、それでも壊れたときはどうなるのだろう」と考えます。

異常を検知できるのか。安全に止まれるのか。一部分の故障が全体へ広がらないのか。そして、直してまた使えるのか。この視点を一つ加えるだけで、研究室で動いた装置と、社会の中で長く使える技術との違いがかなり見えやすくなります。

私は、良い技術とは「決して壊れない技術」ではなく、壊れる可能性まで含めて考えられている技術なのだと思っています。新しい技術の記事を見たとき、「どれくらい壊れにくいか」と同じくらい、「もし壊れたら、次に何が起きるのか」を見てみてください。技術の性能表だけでは見えなかった、本当の使いやすさや安全性が少し見えてくるはずです。


参考文献

1.Federal Aviation Administration (FAA), “AC 25.1309-1B: System Design and Analysis,” 2024.
2.National Highway Traffic Safety Administration (NHTSA), “Automated Driving Systems 2.0: A Vision for Safety,” 2017.
3.Ellingwood, B. R. et al., “Best Practices for Reducing the Potential for Progressive Collapse in Buildings,” NISTIR 7396, National Institute of Standards and Technology, 2007.