レンソイスの砂丘に現れる地下水ーー数値モデルとGNSS実測で『確認済み』の範囲を検証

Visual by ロザニカ, via midjourney

ブラジル北東部のレンソイス・マラニャンセスでは、白い砂丘の谷間に雨季になると無数の湖が現れます。雨は砂へ浸透して地下水面を押し上げ、低地が冠水すると湖になります。しかし、「雨が降るから湖ができる」という説明だけでは、なぜ長い砂丘列と水域が交互に並ぶのか、さらに、その地形が現在も動いているのかまでは分かりません。そこで焦点になるのが、地下水が砂丘の形成にどこまで関わっているのか、そして何が実測で確かめられているのかです。

ロザニカでは、地下水位の季節変動を組み込んだ2012年の数値モデルと、2015~2017年にGNSSで地形変化を追った2019年の現地測量研究を注意深く読みました。前者が示したのは、地下水位の変動周期と砂丘の移動時間が近いと、湖とバルハノイドが交互に並ぶ地形を再現できること。一方、後者が直接確認したのは、カブレ村付近の限られた区画で侵食と堆積が進み、砂の総体積が約6.14万m³減ったことです。つまり、「地下水が景観を形づくる仕組み」と「砂丘が現在も動いている事実」は別の方法で示されています。本記事では、この2つをつなげつつ、どこまでがモデルで、どこからが実測なのかを明確にします。

白い砂丘の間に、なぜ無数の湖が現れるのか

レンソイス・マラニャンセス国立公園は、ブラジル北東部のマラニョン州沿岸に位置しています。公園の面積はおよそ15万5,000ヘクタールに及び、砂丘だけでなく、淡水湖、マングローブ、低木地帯なども含まれています [1][2]。

この地域を代表する地形が、横方向につながった三日月形の砂丘です。単独の三日月形砂丘は「バルハン」、それらが横につながった長い砂丘列は「バルハノイド」と呼ばれます。

レンソイスでは、このバルハノイドが何キロメートルにもわたって連なり、その間に淡水の湖が点在しています。砂丘地帯は海岸沿いに約75キロメートル延び、内陸へ20キロメートル以上入り込む場所もあります。海岸付近では高さ50センチメートルから1メートルほどの小さな砂丘が形成され、風下へ進むにつれて成長し、高さ30メートルに達する砂丘列もあるとされています [1]。

湖が現れる季節は、主に雨季です。文献[1]では、年間降水量の約93%が1月から7月に集中し、この時期に地下水位が高くなることで、砂丘間の低地が冠水すると説明されています。多くの湖には川のような明確な流入口や流出口がなく、水の供給源は降雨です [1]。

ここで重要なのは、「雨が砂丘の表面にたまる」という説明だけでは不十分な点です。

砂は水を通しやすいため、降った雨の多くは地表を川のように流れ続けるのではなく、砂の内部へ浸透します。浸透した水が地下に蓄積されると地下水面が上昇し、やがて砂丘の谷間にある低い地表へ達します。その結果、低地が地下水面より下に入り、地上に湖が出現するのです [2]。

雨季の湖は、平均約7ヘクタールの面積を持ち、砂丘間の水域がレンソイス全体の約41%を占めるという先行調査も、文献[1]内で紹介されています。ただし、この割合には大きな恒久湖なども含まれているため、すべてが毎年消える一時的な湖というわけではありません [1]。

そして雨が減り、蒸発が進む乾季になると、地下水面は再び低下します。湖底だった場所が地表に現れ、多くの一時湖が縮小・消失します。

レンソイスの湖は、毎年同じ容器に水が注がれてできるわけではありません。砂丘自体が移動するため、低地の位置や形も変わります。翌年に湖が戻ってきても、前の年とは輪郭や場所が異なる場合があるのです [1]。

図解1:レンソイスに湖が現れる仕組み

地下水の上下が砂丘を「壊して作り直す」

地下水面の上昇は、湖を出現させるだけではありません。砂が風によって動ける場所そのものを変えます。

乾いた砂粒は、一定以上の風を受けると地表を跳ねるように移動します。砂粒が地面へ衝突すると別の粒が飛び出し、この過程が繰り返されることで大量の砂が風下へ運ばれます。これを「跳躍」と呼びます。

一方、水面より下にある砂は風から遮断されるため、風食を受けません。文献[1]の数値モデルでも、水没した地表では風による砂の輸送を停止させています。風で運ばれてきた砂が水面との境界に達すると、そこで堆積する設定です [1]。

雨季に地下水面が上昇すると、砂丘の低い裾部分や砂丘間の谷が水没します。しかし、十分に高い砂丘の頂部は水面より上に残ります。露出した部分の砂は風で移動できる一方、水没した低地の砂は動きにくいままです。

すると、砂丘上部から運ばれた砂の一部が、冠水した砂丘間低地へたまります。砂丘は少し低くなり、谷は砂で埋められていきます。これは、雨季に砂丘の一部が「解体」されるような変化です。

乾季になって地下水面が下がると、低地へ堆積した砂が再び地表に現れます。その砂は風にさらされ、小さな砂丘へ成長しながら移動を始めます。

したがって、レンソイスの砂丘は、雨季に完全停止して乾季に同じ形のまま動き出すとは限りません。雨季には水によって移動可能な範囲が限定され、乾季には新しく露出した砂が砂丘形成へ参加します。

水位の上昇と低下が、「砂丘を低くする期間」と「砂丘を組み立て直す期間」を交互に生み出しているのです。

文献[1]のモデルでは、地下水面の変動幅が大きくなるほど、風下方向へ進んだ砂丘が高くなりにくい結果も得られています。海岸から約5キロメートルの位置を比較すると、水位の変動幅を20センチメートルとした計算では砂丘高が約28メートルに達した一方、1メートルでは約12メートル、2メートルでは約4メートルでした [1]。

なぜ砂丘と湖が交互に並ぶのか

レンソイスの最大の特徴は、湖が存在することだけではありません。長く連なる砂丘列と水域が、帯のように交互に並んでいる点にあります。

この規則的な景観を説明する鍵として、文献[1]が注目したのが「地下水位の変動周期」と「砂丘のターンオーバー時間」の関係です。

ターンオーバー時間とは、砂丘が自分自身の幅に相当する距離を移動するまでの時間です。小さな砂丘は比較的速く移動し、大きな砂丘はゆっくりと移動します。

研究チームは、地下水面が上下する周期を変え、砂丘地形がどのように変化するかを計算しました。その結果、地下水面の周期が砂丘のターンオーバー時間より極端に短い場合と、極端に長い場合では、レンソイス特有の砂丘列が形成されにくいことが示されました [1]。

水位変動が速すぎる場合、地下水面が下がっても、砂丘間に新しい砂丘を十分に作る時間がありません。雨季に砂丘から低地へ移される砂の量も小さくなり、孤立した砂丘と広い平坦地が目立つ地形になります。

逆に水位変動が遅すぎる場合、水没期間中に砂丘が大きく削られ、広い範囲が平坦化します。その後の乾燥期間が長ければ砂丘は再形成されますが、現実のレンソイスとは異なる変化になります。

特徴的な砂丘列が現れたのは、地下水面の変動周期と砂丘のターンオーバー時間が近い場合でした。

雨季には、砂丘の裾が水中に残った状態で、頂部の砂が風下へ移動します。砂丘は低くなり、砂丘間には砂が堆積します。乾季に水位が低下すると、谷間にたまった砂から小さな砂丘が生まれます。

小さな砂丘は、大きな砂丘より速く移動します。そのため、砂丘間に出現した小さな地形が前方の大きな砂丘へ追いつき、衝突します。この合流が繰り返されると、個別の三日月形砂丘が横方向につながり、長いバルハノイドへ変化していきます [1]。

研究チームは、地下水面の変動周期を1年、風の条件から求めた砂の移動量を年間約210平方メートルとした場合、高さ約10メートルの砂丘で両者の時間尺度が近くなると計算しました。この大きさは、レンソイスで見られる砂丘の規模と整合するとされています [1]。

図解2:地下水位の周期で変わる砂丘地形

地下水と風のどちらが主役なのか

雨季と乾季では、地下水面だけでなく風の強さも変化します。

文献[1]によると、乾季に当たる8月から12月は降雨が少なく、月平均の風速が雨季より高くなります。また、砂を動かす風は主に東側から吹き、風向の一方向性を示す指標は約0.97でした。1に近いほど風向が一方向へ集中しているため、レンソイスでは非常に一定した方向から砂が運ばれていることになります [1]。

それでは、砂丘列を作る主役は地下水ではなく、季節によって変わる風なのでしょうか。

研究チームは、この可能性を確かめるため、地下水面が高い時期に風を弱くし、水位が低い時期に風を強くする条件でも計算しました。しかし、風の強さを一定とした場合と似た砂丘パターンが得られたと報告しています。

この結果から文献[1]は、レンソイスの砂丘形態を制御する主要な要素は、季節的な風速変化よりも地下水面の変動であると結論づけています [1]。

ただし、これは風が重要ではないという意味ではありません。砂を実際に運ぶのは風です。地下水は、風が砂を動かせる場所と動かせない場所を季節ごとに切り替えています。

風が砂丘を作る「力」だとすれば、地下水面はその力が作用する範囲を制御する「境界線」と表現できるでしょう。

レンソイスの景観は今も移動している

数値モデルが示したのは、地下水面の変化によって砂丘列が形成され得る仕組みです。一方、実際の砂丘が現在も動いていることは、現地測量からも確認されています。

2019年に『Scientific Reports』へ掲載された研究では、レンソイス・マラニャンセス東部のカブレ村付近で、GNSSを用いた高精度測量が実施されました。調査対象は公園全体ではなく、プレギサス川河口に近い一部の砂丘区域です [2]。

研究チームは2015年と2017年に砂丘表面を測量し、地表の高さを三次元的に表した数値標高モデルを作成しました。2015年には1,010点、2017年には1,700点の測量データが収集され、高さ方向の平均精度は約2.5センチメートルでした [2]。

2時点の地形を比較すると、砂丘の頂部や下部で侵食が生じ、南西側では砂の堆積が進んでいました。砂の主な移動方向は北東から南西でした [2]。

調査区内の砂の総体積は、2015年の約83万8,019立方メートルから、2017年の約77万6,588立方メートルへ減少しました。約1年3か月の観測期間における差は、およそ6万1,431立方メートルです。また、最大標高は約33センチメートル低下していました [2]。

ただし、この数値を「レンソイス全体から同じ割合で砂が失われている」と解釈することはできません。測量したのは特定の沿岸区域であり、研究期間も比較的短いためです。論文自体も、砂丘の長期的な動態を理解するには継続的な観測が必要だとしています [2]。

それでも、レンソイスが動かない絶景ではないことは明確です。ある場所では砂が削られ、別の場所では積み上がり、砂丘の頂部と谷の位置が少しずつ入れ替わっています。

湖が毎年現れているように見えても、その器となる地形は固定されていません。砂丘が動けば低地も動き、地下水面が地表へ現れる場所も変化します。

雨と地下水も、この砂丘景観を形づくる

レンソイス・マラニャンセスの景観を見ていると、まず白い砂丘が存在し、そのくぼみに後から湖が入り込んだように感じます。

しかし、研究が示す構図は逆です。

雨が砂へ浸透して地下水面を押し上げ、地下水が風食を受ける範囲を狭めます。砂丘上部から移動した砂は低地へたまり、乾季に再び露出して小さな砂丘になります。その小砂丘が大きな砂丘へ追いつくことで、長い砂丘列が作られる可能性があります。

つまり、水は完成した砂丘に現れるだけではありません。砂丘の高さ、間隔、つながり方を変える要因として、地形形成の過程へ組み込まれています。

ロザニカ編集部の視点では、レンソイスの本当の異常さは「砂漠のような場所に湖があること」だけではありません。

砂を止める水と、砂を運ぶ風が、同じ土地を季節ごとに奪い合っていること。

そのせめぎ合いが、白い砂丘と青い湖を別々に作るのではなく、ひとつの景観として同時に生み出しているのです。

雨が地下へ入り、地下水面が上がり、風が砂を動かし、水位が下がると再び砂丘が組み直される――。あの景観は、地上と地下を往復する水によって、毎年描き直されているのです。


参考文献
[1] Marco C.M. de M. Luna, Eric J.R. Parteli, Hans J. Herrmann, Model for a dune field with an exposed water table, Geomorphology, Volumes 159–160, 2012.
[2] Santos ALS, Borges HP, Silva Junior CHL, Piedade Junior RN, Bezerra DS. Modelling Dunes from Lençóis Maranhenses National Park (Brazil): Largest dune field in South America. Scientific Reports. 2019;9:7434. doi:10.1038/s41598-019-43735-0.

執筆:水野玲
検証・編集:白石慎