ピンクの湖や赤い滝…自然現象とは思えない「異様な色の絶景」を科学で比較

Visual by ロザニカ, via midjourney

西オーストラリアのミドル島には、湖面全体が鮮やかなピンク色に見えるヒリアー湖があります。一方、南極のテイラー氷河では、白い氷の上へ赤褐色の水が流れ出す「Blood Falls(血の滝)」が知られています。どちらも写真だけを見れば人工的に着色したような赤系統の景観ですが、研究を追うと、色が生まれるまでの過程は大きく異なります。ヒリアー湖では湖の中にいる微生物が作る色素が有力な要因なのに対し、Blood Fallsでは地下から出てきた鉄に富む塩水が、地表の酸素に触れることで赤い沈殿物を生みます。見た目は似ていても、一方は生物が持つ色素、もう一方は地下と地表の環境差によって起こる化学反応が中心にあるのです。

ヒリアー湖について2022年の研究が調べたのは、「ピンク色の原因はドナリエラという藻類だけなのか」という点でした。水と堆積物をDNA解析すると、細菌・古細菌・真核生物などを含む4,001種が検出され、従来から候補だった Dunaliella salina だけでなく、Salinibacter、Halobacillus、Psychroflexus、Halorubrum など複数の色素産生微生物が確認されました。データベース上でカロテノイド産生に分類されたものだけでも32種あります。湖の塩分は約28%で、論文が比較する一般的な海水3.5%の約8倍。研究結果から見えてきたのは「一種類の藻が湖をピンクに染める」という単純な説明ではなく、高塩分環境に適応した複数の色素産生者が共存する微生物群集です。ただし、この研究だけで湖のピンク色への各微生物の寄与率まで確定したわけではありません。

Blood Fallsでは、色が現れるタイミングそのものが違います。2007年の研究で調べられた地下由来の塩水は、塩化物イオンが約1,440mM、総鉄濃度が3.8mMを超え、供給源では酸素が検出されない還元的な環境でした。その塩水が氷河末端から外へ出て大気に触れると、鉄を含む成分が酸化し、白い氷の上に赤褐色の沈殿物を作ります。地下水中には微生物も存在し、調べられたクローンの46%を占めた系統は硫黄酸化細菌 Thiomicrospira arctica と99%の配列類似性を示しましたが、ヒリアー湖のように「微生物の色素」が赤い景観を直接作るという説明ではありません。微生物はむしろ、酸素の乏しい地下で続く鉄・硫黄循環の一部として注目されています。

ロザニカでは、この2つの現象について、「色を作る物質は何か」「その物質はどこにあるのか」「いつ目に見える色になるのか」まで発色の流れを並べました。 すると、同じ赤〜ピンク色でも、ヒリアー湖では高塩分の湖内で色素を持つ微生物群が存在するのに対し、Blood Fallsでは酸素の乏しい地下に溶けていた鉄が地表へ出たところで赤色として現れる、という違いがはっきりします。一方で両者に共通するのは、通常の淡水とは大きく異なる高塩分環境です。つまり、この2つの絶景を結ぶのは「同じ物質が赤くしている」という共通原因ではなく、極端な環境条件が、それぞれ生物学と地球化学という別の経路を通って目に見える色として現れていることです。本記事では、見た目だけでは区別できない2つの「異様な色」を、発色までの過程から比較していきます。

ピンクの湖と赤い滝――見た目は似ていても中身はまったく違う

まず、2つの場所を比べてみましょう。

ヒリアー湖は、オーストラリア南西部の沖合に位置するミドル島にあります。研究では面積約0.15平方キロメートル、長さ約600メートル、幅約250メートルの湖として記載されています [1]。

最大の特徴は、もちろんその色です。

研究者はヒリアー湖を「恒常的にピンク色を呈する湖」と説明しており、季節によって色の強さには変化があるものの、特徴的なピンク色が知られています [1]。

さらに異常なのが塩分です。

研究で示された塩分濃度は約28%。論文が比較対象として挙げる一般的な海水の約3.5%に対し、単純な濃度比ではおよそ8倍です [1]。

つまりヒリアー湖は、「ピンク色の湖」であると同時に、普通の海とは大きく異なる高塩分環境でもあります。

一方、Blood Fallsは湖ではありません。

南極マクマード・ドライバレーのテイラー氷河の末端から、地下の高塩分水が断続的に流れ出す現象です [2]。

周囲は氷に覆われているにもかかわらず、その一部だけが赤褐色に染まるため、遠くから見ると巨大な氷河から血が流れ出しているように見えます。

研究によれば、Blood Fallsから出てくる塩水は鉄に富み、その地下の供給源では酸素が検出されないほど還元的な環境でした [2]。

そして、この化学的に還元された塩水が氷河の外へ出て大気にさらされると酸化し、赤い沈殿物を形成します [2]。

つまり、大まかに整理すると、

ヒリアー湖 → 微生物が作る色素が重要な候補

Blood Falls → 鉄に富む地下塩水の酸化が赤い景観と関係

という違いがあります。

表1:ヒリアー湖とBlood Fallsの比較

ヒリアー湖Blood Falls
場所西オーストラリア・ミドル島南極・テイラー氷河
見た目湖全体がピンク色氷河から赤褐色の水が流れる
環境高塩分湖氷河下の高塩分・低酸素環境
色に関わる主要因複数の色素産生微生物が候補鉄に富む塩水の酸化
微生物古細菌、細菌、藻類など非常に多様鉄・硫黄代謝と関係する系統を含む
重要な共通点高塩分という極端な環境高塩分という極端な環境

同じ「赤い水」に見えても、背景ではかなり異なる現象が起きているのです。

ヒリアー湖はなぜピンク色?DNAから見つかった「色素を作る微生物」

ヒリアー湖のピンク色については、以前からある有力な候補が知られていました。

高塩分環境でも生息できる微細藻類のDunaliella salina(ドナリエラ・サリナ)です。

この藻類が持つカロテノイドやクロロフィルなどの色素が、湖の色に関係しているのではないかと考えられてきました [1]。

しかし、2022年の研究はこの説明をさらに複雑なものにしました。

研究チームは湖の水や堆積物を採取し、16S・18S rRNA遺伝子解析やショットガン・メタゲノム解析などを組み合わせ、そこに存在する微生物を調査しました [1]。

その結果、湖内から確認されたのはDunaliellaだけではありませんでした。

細菌、古細菌、真核生物、ウイルスを含む非常に多様な生物群が確認され、種レベルで集計された微生物は4,001種に達しました [1]。

細菌ではSalinibacter ruberが特に多く、真核生物では従来から候補とされてきたDunaliella salinaが最も多く検出されています [1]。

さらに研究者が既存データベースと照合したところ、4,001種のうち498種が何らかの極限環境微生物に分類されました。そのうち249種は高塩分環境に適応した好塩性の生物として分類されています [1]。

塩分28%という環境が「生物がほとんど存在できない死の湖」なのではなく、むしろ特殊な微生物の世界になっていたわけです。

そして、ピンク色を考えるうえで重要なのが、色素産生能力を持つとされる微生物が一種類ではなかったことです。

研究では、

Dunaliella
Salinibacter
Halobacillus
Psychroflexus
Halorubrum

など、複数の色素産生微生物が確認されています [1]。

データベースとの照合では、少なくとも32種がカロテノイド産生、4種がクロロフィル産生、4種がメラニン産生として分類されました。さらに、種類までは特定されていないものの、色素を作ることが知られている微生物も多数含まれていました [1]。

ここで重要なのは、「湖をピンク色にしている犯人はこの一種だ」と研究が断定したわけではないことです。

研究チーム自身も、今回の研究だけではヒリアー湖のピンク色を生み出すすべての原因を最終的に解明したわけではないと明記しています [1]。

むしろ見えてきたのは、

「Dunaliellaという一種類の藻が湖を染めている」

という単純な構図ではなく、

複数の色素産生微生物からなる共同体が、湖全体の色に関係している可能性

です。

研究者らは特にSalinibacterを含む色素産生微生物について、さらに培養や分子生物学的な研究を進める必要があるとしています [1]。

図解1:ヒリアー湖がピンクに見える仕組み

南極「血の滝」はなぜ赤い?氷河の下から出てくる鉄に富んだ塩水

では、Blood Fallsも微生物の色素で赤くなっているのでしょうか。

少なくとも今回扱う研究から読み取れる仕組みは、それとは大きく異なります。

Blood Fallsの正体は、テイラー氷河の下から地表へ流れ出してくる高塩分の地下水です [2]。

その塩水は通常の氷河の融け水とは化学組成が大きく異なっています。

研究では、活発な地下水流出が確認された試料で塩化物イオン濃度が約1,440mM、硫酸イオン濃度が約50mMに達しました。また地下から直接供給される水は鉄に富み、総鉄濃度は3.8mMを超えていました [2]。

さらに供給源の水からは酸素が検出されておらず、地下は強く酸素が制限された環境と考えられます [2]。

ところが、その塩水が氷河の外へ出れば環境は変わります。

論文では、化学的に還元された地下塩水が大気にさらされることで酸化し、氷河末端に赤い塩の堆積物を形成すると説明されています [2]。

つまりBlood Fallsの赤さを理解する鍵は、地下と地表の化学環境の落差です。

氷河の下では酸素の乏しい環境に閉じ込められていた鉄に富む塩水が、地表に現れて酸化環境に入る。

その境界が、白い氷河の上に赤い景観を作り出しているのです。

しかも、この地下塩水は単に「鉄が溶けた水」ではありません。

研究では、そこに微生物の生態系が存在することも示されました。

16S rRNA遺伝子を使って調べたクローンライブラリでは、最も多かった系統が全体の約46%を占め、北極圏の海洋堆積物から知られる硫黄酸化細菌Thiomicrospira arcticaと99%の配列類似性を示しました [2]。

さらに、鉄や硫黄化合物を利用することが知られている微生物に近い系統も確認されています [2]。

研究チームは、鉄と硫黄がテイラー氷河下の微生物生態系で重要な役割を果たしている可能性を指摘しています [2]。

ここにはヒリアー湖との興味深い違いがあります。

ヒリアー湖では、微生物が作る「色素」そのものが景観の色に関係している可能性があります。

一方、Blood Fallsでは微生物は地下の鉄・硫黄循環と関係すると考えられるものの、赤い景観そのものについては、鉄に富む塩水が地下から地表へ出て酸化するという地球化学的な変化が重要です [2]。

「微生物がいるから赤い」と一括りにはできません。

図解2:ヒリアー湖とBlood Falls――同じ赤系統でも色の作り方は違う

「異様な色」は極限環境が目に見えるようになったものなのか

ここまで比較すると、ヒリアー湖とBlood Fallsは、一見よく似ているにもかかわらず、かなり異質な現象であることが分かります。

ヒリアー湖では、塩分約28%という環境の中に多数の極限環境微生物が存在し、その中には複数の色素産生者が含まれていました [1]。

Blood Fallsでは、酸素の乏しい氷河下に鉄と塩分に富む水があり、地表へ出ることで化学環境が大きく変化します。同時に、その地下環境には鉄や硫黄の代謝と関係する可能性のある微生物群が存在していました [2]。

つまり「赤い水」という見た目だけで分類すると同じでも、内側で起きている現象は違います。

ただし、両者には一つの大きな共通点があります。

それは、普通の淡水環境とは大きく異なる、高塩分という極端な条件です。

ここから先は、2本の論文から直接示された結論ではなく、ロザニカ編集部としての考察です。

私たちが「異様な色」と感じる風景は、ときにその場所の特殊な環境条件が、人間にも認識できるほど大きなスケールで表面化したものだと考えられます。

ヒリアー湖では、高塩分環境に適応した微生物群が色素という形で存在感を示しています。

Blood Fallsでは、氷河下という隔離された化学環境から地表へ出た塩水が酸化することで、地下に隠されていた化学的特徴が赤い景観として現れます。

色は単なる飾りではありません。

その場所にどんな物質があり、どんな生物が生き、どんな化学反応が進んでいるのかを示す「目に見える結果」になっている場合があるのです。

そして、今回の2例を比較すると、自然界の色を見ただけで原因を決めつける危険性も分かります。

ピンクだから微生物とは限らず、赤いから鉄だけとも限りません。

ヒリアー湖についても、研究者は色の全容が確定したとはしておらず、さらなる培養・解析が必要だとしています [1]。Blood Fallsの研究も、赤い景観だけではなく、その背後にある氷河下の微生物生態系を明らかにすることを主眼とした研究です [2]。

自然現象とは思えないほど鮮烈な色ほど、その裏側には単純ではない生物学と地球化学が隠れているのかもしれません。

ピンク色の湖と、血のように赤い滝。

似た色に見える2つの絶景は、実際にはまったく別の方法で自然が作り出した「異常な色」だったのです。


参考文献
[1] Sierra MA, Ryon KA, Tierney BT, et al. Microbiome and metagenomic analysis of Lake Hillier Australia reveals pigment-rich polyextremophiles and wide-ranging metabolic adaptations. Environmental Microbiome. 2022;17:60. doi:10.1186/s40793-022-00455-9.
[2] Mikucki JA, Priscu JC. Bacterial Diversity Associated with Blood Falls, a Subglacial Outflow from the Taylor Glacier, Antarctica. Applied and Environmental Microbiology. 2007;73(12):4029-4039. doi:10.1128/AEM.01396-06.
執筆:水野玲
検証・編集:白石慎