こんにちは。ロザニカで検証・編集を担当している白石慎です。
普段、情報を見るときには「その数字は正しいのか」だけでなく、「その数字は何を数え、何と比べた結果なのか」まで確認するようにしています。数字は、文章より客観的に見えます。「50%増加」「成功率90%」「過去最高」と書かれていると、それだけでかなり強い根拠があるように感じるかもしれません。ただ、数字そのものが正しくても、そこから受ける印象まで正しいとは限りません。今回は、私が数字を見るときにどこを確認しているのかをお話しします。
数字は、間違っていなくても人を驚かせられる
たとえば、ある出来事について「発生件数が50%増加した」と書かれていたとします。この数字自体には、何の間違いもないかもしれません。ただし、前年が2件で今年が3件だった場合も、2000件から3000件になった場合も、「50%増加」です。
計算としてはどちらも正しい。でも、この二つから受ける印象はかなり違います。私はこういう数字を見たとき、「実際には何件から何件になったのか」を確認したくなります。割合だけでは、変化の大きさは分かっても、その出来事そのものの規模までは分からないからです。これは、数字を疑っているわけではありません。むしろ逆で、その数字が何を表しているのかを、もう少し正確に知りたいのです。
「2倍になった」を見たら、何が何になったのかを見る
似たようなことは、「2倍」「3倍」といった倍率でも起こります。仮に、ある出来事が起きる確率について「リスクが2倍になった」と書かれていたとします。このとき、0.01%から0.02%になった場合も、10%から20%になった場合も、倍率だけ見れば2倍です。
ところが、実際にその数字をどう受け止めるべきかは同じではありません。こうした割合や倍率を「相対値」と呼ぶことがあります。それに対して、0.01%から0.02%、10件から20件といった実際の値が「絶対値」です。私は「○%増加」「○倍になった」という数字を見たら、できる限り絶対値も確認します。元の記事に書かれていなければ、引用元の資料やグラフまで遡ることもあります。相対値が悪いわけではありません。変化の大きさを比較するには非常に便利です。ただ、相対値だけを見ていると、実際の規模を必要以上に大きく感じることがあります。「50%増えた」と知ったら、その次に「何から何へ?」と考える。この一手間だけでも、数字の見え方はかなり変わります。
「過去最高」は、どの過去と比べたのか
もう一つ、私が気になるのが「過去最高」という表現です。過去最高という言葉を見ると、非常に大きな記録が生まれたように感じます。ただ、その「過去」がどの期間を指しているかは確認しておきたいところです。統計開始から50年間で最高なのか、過去10年間で最高なのか。今年に入ってから最高なのか。あるいは、特定の月だけを比較した結果なのか。それによって意味は変わります。「前年より30%増加」という数字でも同じです。前年が何らかの事情で極端に低かった場合、今年の数字が通常の水準に戻っただけでも大幅増になります。反対に、前年が異常に高かった場合には、かなり大きな数字であっても「前年比減」と表現されることがあります。
だから私は、増加率を見るときには、その数字そのものだけではなく「何と比べているのか」を確認します。数字には、ほぼ必ず比較の基準があります。その基準を外してしまうと、計算は正しくても、受け取る意味が変わってしまうことがあります。
「成功率90%」なら、私は分母を探す
割合を見るときに、もう一つ確認したいのが分母です。「成功率90%」と書かれていたとします。かなり高い数字に見えます。ただ、9人中8人が成功した場合と、1万人近くを調べて約90%だった場合では、その数字について判断できることが同じとは限りません。
さらに、「成功」の定義も確認する必要があります。ある技術について「90%成功した」と書かれていても、研究者が定義した成功が「一度でも目標動作を達成した」という意味なのか、「長期間安定して動作した」という意味なのかで印象は大きく変わります。
数字を確認するとき、つい数値そのものに目が行きます。しかし、その数値が生まれる前には必ず「誰を数えるか」「何を成功とするか」といったルールがあります。そのルールが変われば、数字も変わります。これは研究結果だけの話ではありません。「利用者数」「事故件数」「世界最大」「満足度」といった身近な数字にも、それぞれ何らかの定義があります。
私が数字を見るときに確認する5つのこと
すべての数字について統計資料まで調べる必要はありません。私自身も、数字を見るたびに同じ手順を最初から最後まで確認するわけではありません。ただ、強い数字や、少し驚くような数字を見たときには、次のうちどれかを確認するようにしています。
- 絶対値
「50%増」なら、実際には何から何になったのか。 - 分母・母集団
何人、何件、何地域などを対象にした数字なのか。 - 比較対象
前年、前月、平均値、別の集団など、何と比べているのか。 - 期間
いつからいつまでの数字なのか。「過去最高」の「過去」はどこまでなのか。 - 定義
「成功」「利用者」「事故」「記録」などを、何として数えているのか。
この5つを全部調べなくても構いません。「50%増なら、元の件数だけ見てみよう」「過去最高なら、統計開始年を確認してみよう」と一つ確認するだけでも、その情報について自分で判断できる材料は増えます。
グラフも、数字と同じように条件を見る
数字がグラフになると、さらに説得力が増します。右肩上がりの線を見ると、急激に増えているように感じることがあります。ただし、縦軸が0から始まっているか、途中から切られているかによって、同じ変化でも見た目の大きさは変わります。たとえば100から105への変化を、縦軸0〜110で描けば小さな上昇に見えます。一方で100〜106だけを表示すれば、かなり急激な上昇に見えるでしょう。
どちらもデータそのものを改ざんしているわけではありません。だから私は、印象の強いグラフを見たら、線だけではなく軸の数字も見るようにしています。グラフでも記事の見出しでも、「何を見せているか」と同じくらい「何が画面の外にあるか」を確認すると、印象に引っ張られにくくなります。
数字を疑うのではなく、数字が何を表しているかを見る
ここまで読むと、「数字も信用できないのか」と感じるかもしれません。私はそうは考えていません。むしろ数字は、条件さえ確認できれば、文章だけの説明よりも検証しやすい情報です。「50%増えた」と書かれていれば、「何から何に増えたのだろう」と次の確認ができます。気をつけたいのは、数字が出てきた瞬間に、それを結論だと思わないことです。
数字は結論ではなく、何かを測った結果です。その前には対象があり、期間があり、比較する基準があり、数え方があります。私は強い数字を見たとき、まず「本当か、嘘か」を決めようとはしません。「この数字は、具体的には何を表しているのだろう」そこから確認します。
すべての数字を細かく調べる必要はありません。ただ、「50%増」という言葉を見たときに、一度だけ「何から何へ?」と考えてみる。それだけでも、数字に対する見え方はかなり変わると思います。
参考文献
1. Gigerenzer, G., et al. (2007). “Helping Doctors and Patients Make Sense of Health Statistics.” Psychological Science in the Public Interest, 8(2), 53–96.
2. Noordzij, M., et al. (2017). “Relative risk versus absolute risk: one cannot be interpreted without the other.” Nephrology Dialysis Transplantation, 32(suppl_2), ii13–ii18.
