ピラミッドの「9mの隠し通路」は本当にあった?ピラミッド内部を推定した3段階を追跡

Visual by ロザニカ, via midjourney

クフ王の大ピラミッド北面、巨大なV字形の石組み「Chevron(シェブロン)」の背後には、現在ScanPyramids North Face Corridor(SP-NFC)と呼ばれる空間があります。ただし、最初から「長さ約9mの通路」が見つかったわけではありません。研究が捉えたものは、段階を追うごとに少しずつ具体的になっていきました。

空間の実像に近づいた3段階

  • 第1段階:2016年――宇宙線ミューオンが予測より多く届く方向を検出。「そこだけ通過する石の量が少ない」という密度異常が見つかった
  • 第2段階:2023年――原子核乾板とMicromegasという別形式のミューオン検出器から、長さ9.06±0.07mと9.23±0.48mという近い推定値が得られた
  • 第3段階:2025年――GPR・超音波・電気抵抗という別原理の非破壊検査が、Chevron直後で空気を含む空間と整合する特徴を捉えた

この順番で見ると、それぞれの証拠が担っている役割は同じではありません。2016年の観測が示したのは空洞そのものではなく、石が連続して詰まっている場合には説明しにくいミューオンの超過でした。2023年には観測位置と検出方式を変えた解析から、空間の位置と規模が絞り込まれ、長さについては9.06mと9.23mという近い値に収束しました。一方、2025年のGPR・UST・ERTが調べたのは主にChevron直後の前方部分であり、9mの全長を3方式で再測定したわけではありません。

それでも証拠として意味があるのは、「約9mという全体像」と「Chevron背後に実際に空気空間があるという局所的な確認」が、異なる測定原理からつながったことです。ミューオンは密度差、GPRは電磁波の反射、USTは弾性波の反射、ERTは電気抵抗率の分布を見ています。測っている物理量が違うにもかかわらず、同じ場所に「石が連続して詰まっているだけではない」特徴が現れています。

ただし、証拠が積み上がったからといって、「9m×2m×2mの完全な直方体の通路」がそのまま確定したわけではありません。 2023年の寸法は直方体モデルを観測データに当てはめた推定値で、2025年には従来想定された側壁より外側や天井より上にも反射が確認されています。南端から断面1m×1m未満の構造がさらに続く可能性も排除されていません。

つまり、現在かなり強く支持されているのはChevron背後に約9m規模の通路状空間が存在することであり、壁・天井の正確な形や、その用途まで分かったわけではありません。本記事では、密度異常から始まった発見が、2種類のミューオン検出器と3種類の非破壊検査によってどこまで具体化されたのかを追いながら、「確認されたこと」と「まだモデルや解釈に依存していること」を切り分けていきます。

最初に見つかったのは「通路」ではなく、宇宙線が多く通る方向だった

大ピラミッド北面には、「Chevron」と呼ばれる大きな石灰岩のV字形構造があります。

Chevronは内部構造の上に巨大な石材を斜めに組み、上からの荷重を逃がす構造です。クフ王のピラミッドでは北面だけでなく、王妃の間の天井や王の間の上部などにも使われています [1]。

SP-NFCが見つかったのは、この北面Chevronのすぐ奥でした。

2016年、名古屋大学の研究チームは、下降通路に設置した「原子核乾板」で宇宙線ミューオンを測定しました。原子核乾板は、通過した荷電粒子の軌跡を記録できる写真フィルム型の検出器です。電源を必要とせず、小型なので、ピラミッド内部の狭い通路にも設置できます [1]。

ここで研究者が見つけたのは、石の壁や空洞そのものではありません。

ある方向から飛んでくるミューオンの数が、シミュレーションより多いという異常でした。

ミューオンは宇宙線が地球の大気に衝突することで生じる粒子で、岩石など厚い物質もある程度通過します。ただし、通過する物質が厚く、密度が高いほど途中で吸収されやすくなります。

逆に考えると、同じ方向に十分な数のミューオンが通過してくるなら、その経路にある物質の量が予想より少ない可能性があります。

ピラミッド内部について、

「この方向にはこれだけの石灰岩があるはずなので、ミューオンはこれくらいまで減るはずだ」

と計算した予測より、実際のミューオン数が多ければ、その途中に低密度の領域、つまり空洞がある可能性が浮かび上がるわけです [1]。

2016年の初期観測から示されたのは、下降通路の上方を南北方向へ伸びる少なくとも5mほどの空洞らしき構造でした [1]。

重要なのは、この段階ではまだ「9mの通路を撮影した」わけではないことです。

見つかったのは、

「ここだけ、あるはずの石が少ない」

という密度の異常でした。

そこから数年をかけて、本当に通路状なのか、どこからどこまで続いているのかが調べられていきます。

なぜ「約9m」と言える?別々の検出器がほぼ同じ答えを出した

最初の発見後、研究チームは2016〜2019年にピラミッド内部の複数地点へ検出器を設置しました。

下降通路からはSP-NFCを比較的近い下方向から観測できます。一方、中世につくられたアル・マムーン通路から測れば横方向から観測できます。

つまり、一方向から影を見るのではなく、異なる位置から同じ空洞を狙うことで立体的な位置と形を絞り込んだわけです [1]。

名古屋大学チームが下降通路に設置した原子核乾板では、複数の検出器すべてからSP-NFCに対応するミューオンの超過が確認されました。その統計的有意性は10σを大きく上回っています [1]。

ただし、研究者はここでも空洞を直接測量したわけではありません。

幅、高さ、長さ、位置などを変えた空洞モデルをコンピューター上につくり、「実際に観測されたミューオン分布を最もよく再現する形」を探しています。

その際、まずSP-NFCを単純な直方体として仮定しました。

名古屋大学側の解析結果は、

  • 幅:2.02 ± 0.06m
  • 高さ:2.18 ± 0.17m
  • 長さ:9.06 ± 0.07m

でした [1]。

北端はChevron表面から約0.84m奥にあり、床面は地上約20mに相当する高さに位置すると推定されています。東西方向ではChevronのほぼ中央で、既知の下降通路のほぼ真上にありました [1]。

ここまでなら、「同じ測定方式で分析した結果」にすぎないとも考えられます。

しかし2023年の研究が強いのは、別の研究チームが、別形式のミューオン検出器を使って独立に近い答えを出していることです。

CEA(フランス原子力・代替エネルギー庁)のチームは、原子核乾板ではなく「Micromegas」と呼ばれるガス検出器を使用しました。

3台の望遠鏡型検出器を設置し、安定したデータだけで約140日、合計1億1600万個を超えるミューオンを収集しています [1]。

こちらでもSP-NFCに対応するミューオン超過は5つの独立した測定データすべてに現れ、統計的有意性は10σを大きく超えていました。

さらに、宇宙線ミューオンの予測方法そのものが結果を生んでいないか確認するため、研究チームは6種類のミューオン分布モデルでも比較しています。それでもSP-NFCに対応する超過は残りました [1]。

CEA側が推定した寸法は、

  • 幅:1.87 ± 0.11m
  • 高さ:1.85 ± 0.12m
  • 長さ:9.23 ± 0.48m

でした [1]。

図解1:2つのミューオン解析が推定した「9mの通路」

2つの推定値は完全に同じではありません。

それでも、誤差を考慮すれば互いに整合しています。

特に長さは9.06mと9.23mで、異なる検出器と解析からほぼ同じ規模が得られました。

ここから言えるのは、「ミューオンが多い場所がある」という初期の異常が、追加観測によって長さ約9m、断面約2m×2mのほぼ水平な通路状空間へと絞り込まれたということです [1]。

ただし、この時点でもなお、「空間そのものを直接見た」わけではありません。

そこで次の段階では、ミューオンとは全く違う物理現象を利用して、Chevron側から同じ場所を調べる研究が進められました。

電波・超音波・電気抵抗でも「同じ場所」に空間が現れた

2025年に『Scientific Reports』で発表された研究では、SP-NFC前方のChevronに対して3種類の非破壊検査が組み合わされました [2]。

使われたのは、

GPR(地中レーダー)
UST(超音波試験)
ERT(電気抵抗トモグラフィー)

です。

ここでは重要な注意点があります。

この研究は、ミューオン観測のように9mの通路全体を端から端まで再測定したものではありません。

測定対象はピラミッド北面のChevron部分で、2020〜2022年に行われた現地調査から、3本の測定断面を選んで解析しています [2]。

したがって、「4方式すべてが9mという長さを測った」と理解するのは正確ではありません。

9mという全長を精密に推定した主役はミューオンです。

一方、後の3方式が強かったのは、その空間が始まるChevron直後を近距離から別原理で検証できたことでした。

まずGPRです。

GPRは電磁波を石材内部へ送り込みます。波が異なる電気的性質を持つ物質の境界にぶつかると、一部が反射します。その反射が戻ってくるまでの時間から、内部の境界位置を推定できます [2]。

つまりGPRが見ているのは、「空間そのもの」というより、石灰岩と空気などが接する電磁波の反射面です。

次がUSTです。

こちらは電磁波ではなく、石材内部を伝わる弾性波を利用します。

物質には「音響インピーダンス」と呼ばれる、音の伝わり方に関係する性質があります。岩石と空気ではこの値が大きく違うため、岩石内部を進んできた波が空気との境界に当たると、その多くが反射します [2]。

そのため、USTは空洞を見つけるうえで非常に有効です。

ただし弱点もあります。

最初の空気境界で波の大部分が反射してしまえば、そのさらに奥側について得られる情報は少なくなります。

そして3つ目がERTです。

ERTでは石材表面に電極を配置して電流を流し、測定された電位から内部の電気抵抗率分布を逆算します [2]。

GPRやUSTが主に「どこで波が反射したか」という境界を捉えるのに対し、ERTではある程度の体積を持った高抵抗領域として内部を捉えられる点が重要です。

空気は石灰岩より電気抵抗率が高いため、SP-NFCの位置にまとまった高抵抗異常が存在すれば、「単なる石材同士の薄い継ぎ目ではない」という判断材料になります。

2025年研究では、GPR、UST、ERTから得られた画像を同じ座標へ合わせ、最終的に1枚の画像へ融合する「マルチモーダル画像融合」が行われました [2]。

ここに、この研究のポイントがあります。

GPRとUSTは同じ物理現象を測っているわけではありません。

ERTはさらに別物です。

それでも、SP-NFCがあると考えられていた場所で、それぞれ異なる特徴が重なりました。

特にProfile H1では、GPRとUSTがChevronを構成する石材の背面に対応する反射を示し、ERTでもその背後に高抵抗領域が確認されました。

研究者らはこの結果について、観測された反射が単なる薄い石材の継ぎ目ではなく、SP-NFCという相当な大きさを持った空気充填空間によるものだとする根拠になると解釈しています [2]。

表1:4種類の「透視法」は実際に何を見ているのか

方法実際に測るもの空間を推定できる理由主な限界
宇宙線ミューオン石を通過してくるミューオンの方向・量密度の低い経路ではミューオンが多く通過する空間を写真のように直接撮るわけではない
GPR電磁波の反射石灰岩と空気など電気的性質が違う境界で反射する石組みでは減衰し、到達深度に限界がある
UST弾性波の反射岩石と空気の音響インピーダンス差が大きい空気境界で強く反射し、その奥を見にくい
ERT電気抵抗率の分布空気を含む領域は石灰岩より高抵抗になる開いた石材継ぎ目なども抵抗率に影響する

ここからは、2本の研究をもとにしたロザニカ編集部の整理です。

4方式の結果が興味深いのは、単純に「確認回数が4倍になった」からではありません。

同じ測定原理を何度繰り返しても、その方式特有の誤差や前提が残る可能性があります。

しかし今回は、

ミューオン → 密度
GPR → 電磁的境界
UST → 音響的境界
ERT → 電気抵抗

と、それぞれ違う物理量を測っています。

それらがChevronの背後という同じ場所で、いずれも「石が連続して詰まっている」というモデルでは説明しにくい特徴を示したことが、SP-NFCの存在を支持する証拠を強くしています。

図解2:4種類の「透視法」は何を見ていたのか

それでも「9m×2m×2mの四角い通路」が確定したわけではない

ここまでを見ると、「では、長さ9m、高さ2m、幅2mの四角い通路が完全に確定した」と考えたくなります。

しかし、論文から言える範囲はそこまで単純ではありません。

2023年研究では、SP-NFCの形を解析する際、まず直方体としてモデル化しています [1]。

これは実際の壁や天井を直接測量して「完全な四角形だった」と確認したという意味ではありません。

CEA側の論文記述でも、直方体は観測データを説明する最も単純な形として採用されたものであり、別の形状もデータと両立するとされています。たとえば天井がChevronのような形になっていたとしても、得られる平均的な寸法は大きく変わらない可能性があります [1]。

さらに、南端についても完全に話が終わったわけではありません。

名古屋大学側の解析では、断面1m×1mを超える構造がさらに南へ続くことはシミュレーション上否定されました。一方CEA側も、現在の統計では1m×1mより小さな断面の構造が南側へ続いている可能性までは排除できないとしています [1]。

そして2025年の近距離測定では、形について新しい示唆も出ています。

横方向のProfile H1やH2では、USTなどで確認された反射面の一部が、それ以前に予測されていたSP-NFCの側壁位置より外側まで伸びていました [2]。

研究者らは、実際に内部を撮影した映像も踏まえ、側壁を構成する石材の角が完全な直角ではなく、隙間の厚さが場所によって違うことが反射の見え方に影響していると解釈しています [2]。

さらに縦方向のProfile V1では、従来想定された天井位置より上にもGPRとUSTの双方で反射が確認されました。

論文では、これについてSP-NFCの屋根が当初考えられていたより高い可能性があると述べています [2]。

ただし、これも「新しい高さが確定した」という意味ではありません。

反射像から提示された解釈であり、2025年論文も今後の写真測量やレーザースキャンによる確認を必要としています [2]。

つまり、2つの研究を合わせて現在の証拠を整理すると、次のようになります。

かなり強く確認されていること

  • Chevronの背後にまとまった空気空間が存在する
  • 空間は南北方向へ延びている
  • 全長は約9m
  • 断面の規模はおよそ2m×2m
  • 全体としてほぼ水平である

まだ単純化してはいけないこと

  • 壁・床・天井の正確な形
  • 南端からさらに小さな構造が続く可能性
  • SP-NFCが造られた目的

特に最後の「何のために造ったのか」について、今回の2本の研究から結論を出すことはできません。

2023年研究はSP-NFCとChevronの建築上の役割を理解することを研究目的の一つに挙げていますが、用途そのものを確定してはいません [1]。

「未知の墓室につながる秘密の通路だった」「建設時だけ使われた空間だった」といった説明を、この2本の研究だけから事実として語ることはできません。

一方で、「本当にそこに空間があるのか」という問いについては状況が大きく違います。

最初に宇宙線ミューオンが「石の少ない方向」を捉えました。

別の位置、別の検出器でも同じ異常が現れ、そこから約9mの通路状構造が推定されました。

その後、Chevron側から電磁波を当てると境界が現れ、超音波でも石と空気の境界に対応する反射が現れました。さらに電気抵抗を調べると、その背後には薄い割れ目だけでは説明しにくい高抵抗領域が確認されました [1][2]。

一つの「透視装置」がピラミッドの内部を鮮明に映したわけではありません。

異なる原理の観測が、それぞれ別の手掛かりを出しながら、同じ場所にある空間へ収束していった。

「9mの隠し通路」が存在すると考える根拠の強さは、まさにそこにあります。


参考文献
[1] Procureur S, Morishima K, Kuno M, et al. Precise characterization of a corridor-shaped structure in Khufu’s Pyramid by observation of cosmic-ray muons. Nature Communications. 2023;14:1144. doi:10.1038/s41467-023-36351-0.

[2] Schumacher T, Pugacheva P, Allam H, et al. Confirmation of the ScanPyramids North Face Corridor in the Great Pyramid of Giza using multi-modal image fusion from three non-destructive testing techniques. Scientific Reports. 2025;15:9275. DOI: 10.1038/s41598-025-91115-8.
執筆:高瀬りょう・相原航
検証・編集:白石慎