
2013年4月10日、アメリカ・ユタ州のビンガム・キャニオン鉱山で、北側斜面が約1時間半の間隔をあけて二度崩壊しました。移動した岩石は鉱山側の推定で合計約1億4400万〜1億5000万トン。崩壊域は長さ約1350m、幅約500mに及び、岩石は鉱山内部を約3km近く移動しました。幸い斜面の異常は事前に監視され、作業員は避難していたため死傷者はいませんでした。しかし崩落は夜間に発生したため、これほど巨大な岩盤がどのように滑り出し、砕け、鉱山底へ流れ込み、停止したのかを直接見た人はいません。代わりにその動きを記録していたのが、数百km先まで届いた地震波でした。
2014年の研究では、崩落地点から70〜970km離れた20観測点の長周期地震波を逆解析し、岩石なだれが地面へ加えた力と重心の運動を推定しました。その結果、二度の崩落はいずれも約90秒続き、重心の最大速度は1回目が37.2m/s、2回目が36.7m/sと算出されています。さらに短周期波を重ねると、最初は巨大な岩盤が比較的まとまった状態で加速し、その後に破砕と衝突が激しくなり、鉱山底へ到達すると急激な減速へ移るという流れが浮かびました。長周期波には岩石全体の加速・減速が、短周期波には岩石同士や地面との衝突が強く現れるため、同じ地震計から崩落の異なる段階を読み取れたのです。
ところが2017年、地震波に航空写真、詳細な地形測量、インフラサウンド、数値シミュレーションまで加えて再解析すると、「約90秒」という数字はさらに細かく分かれました。中間周期の地震波から推定した継続時間は1回目71秒、2回目84秒。短周期を含む解析では約70秒と約90秒、数値シミュレーションでは主要な高速運動が約70秒と約80秒で終わる結果になっています。速度も、地震波から推定した重心では最大59m/sと29m/sだった一方、数値モデル内の高速部分は75m/sと85m/sに達しました。85m/sは時速に直すと約306kmです。ひとつの崩落に複数の時間や速度が出てくるのは、岩石なだれ全体の重心運動、先端付近の高速移動、停止後も続く岩塊同士の衝突など、観測方法によって捉える運動が変わるためです。
ロザニカでは、2014年と2017年の推定値を時間軸に並べ、「崩落が何秒続いたか」という一つの数字ではなく、何をもって崩落の開始・終了とするかで見える時間がどう変わるのかを追いました。すると、ケネコット鉱山で起きたのは、巨大な岩塊が約90秒間ずっと同じ状態で滑り続けた現象ではないことが分かります。最初の約30秒はまとまった岩盤として滑り、その後は破砕された高速の岩石なだれとなり、約60〜90秒では主要な前進が止まっても内部の衝突が続いていました。さらに2017年研究では、二つの主崩落の間とその後から11回の小規模地滑りまで検出されています。つまり地震計が残していたのは「90秒の崩落映像」の代用品ではなく、数十秒の中で性質を変えながら進み、さらに数時間にわたって続いた斜面崩壊の記録だったのです。本記事では、異なる周期の地震波と地形・音波・数値モデルから、その動きをどこまで復元できたのかを見ていきます。
一夜に二度起きた巨大な「岩石なだれ」
最初の大規模崩落は、現地時間の午後9時30分ごろに発生しました。その約1時間半後、午後11時05分ごろには、同じ北側斜面で二度目の崩落が起きています [2]。
崩れた岩盤は、単純に垂直方向へ落下したわけではありません。
写真と地形データの分析によると、岩盤は「マネフェイ断層」と呼ばれる大規模な断層面に沿って動き始めました。この滑り面は西方向へ約21度傾いており、急崖と呼ぶほど急ではありません。それにもかかわらず、岩盤は斜面からほぼ完全に失われていました。
崩壊した範囲は長さ約1350メートル、幅約500メートルに及びます。岩盤が抜け落ちた斜面上部には、高さ約120メートルの崖が残されました。浅い傾斜の断層面から大量の岩盤が滑り落ちたことから、研究者たちは、滑り面の摩擦抵抗が比較的小さかった可能性を指摘しています [2]。
地形復元によって推定された発生源の岩石体積は、二つの崩落を合わせて約5200万立方メートルでした。最初の岩石なだれは、二度目より約1.5~2倍大きかったと考えられています [2]。
崩落物は北側斜面から西または南西方向へ滑り出した後、大きく南へ向きを変え、鉱山の深部へ流れ込みました。崩落源の頂部から堆積物の最遠端までの水平距離は約2950メートル、高低差は約850メートルに達しています [2]。
硬い岩山だったものが、わずか数十秒で斜面を流れる「岩石なだれ」に変わったのです。
地震ではないのに、なぜ地震波が生まれたのでしょうか?
通常の地震は、地下の断層が急激にずれることで発生します。蓄積されていたひずみが解放され、そのエネルギーが地震波となって地中を伝わります。
一方、ケネコット銅山で動いたのは、地表付近にあった巨大な岩石の塊です。
岩盤が斜面を滑り始めると、岩盤と地面の間には力が働きます。岩盤が加速すれば、その反作用として地面へ加わる力も変化します。進路を曲げたり、鉱山の底へ落ち込んだり、障害物に衝突して減速したりするたびに、地面は押され、振動します。
その振動が、地震と同じように固体の地球を伝わり、離れた場所にある地震計まで届いたのです。
2014年の研究では、崩落地点から70~970キロメートル離れた20か所の観測点で記録された、周期40~150秒の長周期地震波が解析されました。また、1ヘルツを超える短周期の振動も、300キロメートル以上離れた観測点で確認されています [1]。
ただし、その波形は通常の地震とは異なっていました。
断層地震の記録では、一般にP波とS波が比較的はっきり現れます。ところが今回の短周期信号は、振動の始まりが不明瞭で、明確なP波とS波も確認できませんでした。信号が徐々に強くなり、長く尾を引く形は、地滑りや岩石なだれに特徴的なものです [1]。
さらに、振動の周期によって、捉えている現象も異なると考えられます。
長周期の地震波には、岩石なだれ全体の加速や減速が反映されます。つまり、巨大な塊全体がどの方向へ動いたのかを読み取る手がかりになります。
一方、短周期の地震波には、岩塊と地面の衝突、岩石同士の衝突、移動物質の内部で起きる破砕などが強く表れると考えられています [1][2]。
長周期波が「岩石なだれ全体の動き」を記録しているとすれば、短周期波は「内部で岩石が砕け、ぶつかる音」を地面の振動として捉えているようなものです。
二種類の地震波を組み合わせることで、研究者たちは崩落の規模だけでなく、動き方が変化した瞬間まで推定しました。
図解1:地震計から読み解くケネコット銅山崩落の90秒

地震波から再現された「崩落の90秒」
研究者たちは、実際に観測された長周期波と、計算上作成した地震波を比較しました。
ある方向へ一定の力を加えた場合、地面にどのような波が生じるのかを計算し、実際の波形に最も近くなるように力の方向と大きさを調整します。こうして、岩石なだれが地面へ加えた力の時間変化を逆算しました。
この時系列は「Landslide Force History」、つまり地滑りが生み出した力の履歴と呼ばれます。
2014年の解析では、二つの崩落はいずれも約90秒続いたと推定されました。地面に加わった最大の力は、最初の崩落で約1380億ニュートン、二度目で約789億ニュートンに達しています [1]。
ただし、「90秒」という数字は、現場映像をストップウォッチで測定した値ではありません。
2017年の研究では、より短い周期を含む地震波を使って再解析した結果、全体運動の継続時間は最初が約71秒、二度目が約84秒と推定されました。別の短周期解析では約70秒と約90秒、数値シミュレーションでは約70秒と約80秒という結果が得られています [2]。
推定時間に幅があるのは、解析が失敗しているからではありません。観測する地震波の周期によって、「崩落の終わり」の捉え方が変わるためです。
長周期波は、主に岩石なだれ全体の移動を反映します。一方、短周期波には、全体の前進が止まった後も続く岩塊の衝突や、堆積物内部の動きが含まれます [2]。
二つの論文を合わせると、崩落は大きく三つの段階に分けられます。
最初の約30秒:まとまった岩盤が滑り出す
崩落の開始直後、長周期波から推定された力は急速に増加しました。かなり早い段階から、大量の岩盤が運動に参加していたことを示しています [1]。
ところが、この時間帯の短周期波は意外なほど弱いものでした。
もし岩盤が崩落開始と同時に完全に粉々になっていたなら、多数の岩塊が地面や互いに衝突し、強い短周期振動が発生するはずです。
短周期波が弱かったことから、研究者たちは、岩盤が当初は比較的まとまった状態を保っていた可能性を挙げています。その後、斜面を加速しながら、徐々に亀裂が広がり、破砕されたと考えられるのです [1]。
2017年の数値シミュレーションでも、最初の約30秒間は、岩盤が一体に近い状態で断層面を滑る設定が採用されました。その後、鉱山内の段差や荒れた地形と接触することで、粒状の流れへ変化する過程が再現されています [2]。
約30~60秒:岩山が高速の流れに変わる
岩盤が断層面を離れ、鉱山内部の段差へ進むと、短周期波は強くなりました。大量の岩石が破砕され、細かな岩塊の集合体として地面と激しく相互作用し始めたと考えられます [1]。
最初の岩石なだれは、西または南西へ移動した後、約90度向きを変えて南へ流れ込みました。曲がりながら高速で移動したため、外側の鉱山壁を駆け上がり、一部の岩石が高い位置にある段差へ取り残された痕跡も確認されています [2]。
2017年の数値シミュレーションでは、最初の岩石なだれの最大速度は約75メートル毎秒、二度目は約85メートル毎秒と推定されました [2]。時速に換算すると、それぞれ約270キロメートル、約306キロメートルです。
一方、2014年に長周期波から推定された重心の最大速度は、最初が約37.2メートル毎秒、二度目が約36.7メートル毎秒でした [1]。2017年の別の地震波解析では、最初が約59メートル毎秒、二度目が約29メートル毎秒と推定されています [2]。
約60~90秒:鉱山底へ到達し、急激に減速する
崩落物の重心は、鉱山底へ到達した付近から減速し始めたと推定されています [1]。
最初の岩石なだれは、鉱山底にあった高さ約45メートルの岩盤の高まりを越え、さらに南側の深い領域へ流れ込みました。数値モデルでは、崩落開始から約55秒後に遠方の鉱山壁へ到達し、約70秒後には主要な高速運動がほぼ終了しています [2]。
しかし、岩石なだれ全体の前進が止まっても、内部の岩石が同時に静止するわけではありません。
一部は横方向へ広がり、一部は押し戻され、堆積物は厚みを増していきます。そのため、重心運動が小さくなった後も、岩石同士の衝突による短周期波は続いていました [1]。
崩落から約1分後に現れた「遅れてきた振動」
二つの崩落では、信号が始まってから約1分後に、1~5ヘルツの短周期帯で強い振動が観測されました [1]。
最初の振動から遅れて到着したため、地中をゆっくり進んできた別の地震波のようにも見えます。しかし研究者たちは、その可能性は低いと判断しました。
この遅い振動は、崩落地点から10キロメートル未満の観測点でも記録されています。もし伝播速度の違いだけで約1分の遅れが生じたのであれば、地震波としては不自然なほど遅い速度を想定しなければなりません。
さらに、遅れて現れるまでの時間差は、鉱山からの距離が異なる観測点でもほぼ同じでした。伝わる速度が原因なら、遠い観測点ほど時間差が大きくなるはずです。
このことから2014年の研究では、約1分後に崩落現場で新たな強い振動が生まれたと解釈されました。崩落物の先端が鉱山底の壁や地形的な障害物にぶつかり、急激に減速した可能性があります [1]。
最初の岩石なだれでは、堆積物が遠方の壁を駆け上がった痕跡も確認されています。地震波から推定された進路と、現地に残された堆積物の形は、おおむね一致していました [2]。
一方、二度目の岩石なだれで記録された終盤の信号については、2017年の研究が別の可能性を示しています。最初の崩落によって鉱山底が厚い岩屑で覆われた結果、大気中を伝わった圧力波と地表面の波が結びつき、「空気結合レイリー波」と呼ばれる振動が生じた可能性です [2]。
地震計は、目撃者のいない災害の「動き」まで記録する
ケネコット銅山で起きた現象は、二度の巨大崩落だけではありませんでした。
2017年の研究では、地震波と、人間の耳には聞こえにくい低周波音であるインフラサウンドを詳しく調べた結果、さらに11回の小規模な地滑りが発見されました [2]。
そのうち8回は二つの巨大崩落の間に発生し、残る3回は二度目の崩落から約4時間以内に起きていました。それぞれの推定体積は約1万~10万立方メートルです。
二つの主崩落と比べれば小規模ですが、この発見によって、斜面は二度だけ突然壊れたのではなく、数時間にわたって段階的に崩壊していたことが分かりました。
ただし、地震波から過去の映像を完全に再現できるわけではありません。
地震波から求められるのは、観測された波形を最もよく説明する力や運動です。個々の岩石がどの順序で割れ、どこへ転がったのかを直接観察したわけではありません。
数値シミュレーションにも、岩石の密度、滑り面の摩擦、岩盤が粒状の流れへ変わるタイミングなど、多くの仮定が含まれています。論文に示された速度や軌跡は、地震波、地形、写真、堆積物の分布を組み合わせた推定結果です。
それでも、複数の独立した方法が似た継続時間と移動経路を示した点は重要です。
長周期波は巨大な質量全体の運動を、短周期波は破砕や衝突を記録しました。航空写真と地形測量は、岩石が通った後に残された痕跡を示しました。数値モデルは、それらを一つの運動過程として結びつけました。
地震計は、地震だけを測る装置ではありません。
地震計が測っているのは、地面を伝わる振動です。その振動源が断層の破壊であっても、火山噴火であっても、巨大な岩盤の移動であっても、十分な力が地面へ加われば記録されます。
ケネコット銅山では、当初はまとまっていた可能性のある岩盤が加速し、次第に砕け、鉱山底で進路を変え、地形に衝突して止まるまでの過程が、異なる周期の波として地球に刻まれました。
目撃者のいなかった約90秒間を記録していたのは、現場のカメラではなく、数百キロメートル先まで届いた地面の揺れだったのです。
参考文献
[1] Hibert C, Ekström G, Stark CP. Dynamics of the Bingham Canyon Mine landslides from seismic signal analysis. Geophysical Research Letters. 2014;41:4535–4541. doi:10.1002/2014GL060592.
[2] Moore JR, Pankow KL, Ford SR, Koper KD, Hale JM, Aaron J, Larsen CF. Dynamics of the Bingham Canyon rock avalanches (Utah, USA) resolved from topographic, seismic, and infrasound data. Journal of Geophysical Research: Earth Surface. 2017;122:615–640. doi:10.1002/2016JF004036.
執筆:高瀬りょう
検証・編集:白石慎
