第6位:1899年 全米を襲った“キスバグ恐怖”騒動

見たことも聞いたこともない奇妙な虫が、突然アメリカ全土に恐怖をもたらす――1899年、全米で巻き起こった「キスバグ恐怖」騒動は、まるで都市伝説がそのまま現実になったかのような不思議な集団パニックでした。

きっかけは新聞報道でした。紙面には「キスバグ」と呼ばれる不気味な虫に顔を“咬まれる”被害が大々的に掲載され、各地で見知らぬ虫の目撃談や体調不良の報告が相次いだのです。「寝ている間に誰かが頬を刺され、腫れてしまった!」「謎の虫に血を吸われた!」といったエピソードが次々に広まりました。その正体はカメムシの一種で、正式にはサシガメと呼ばれる吸血性の虫。アメリカでは本来それほど目立つ存在ではありませんでしたが、不安が“感染”したかのように、どこからともなくキスバグの目撃例が続発し、各地の人々がパニックに陥ったのです。

では、本当にそんなに危険な虫だったのでしょうか?実は、このキスバグの存在が全米中に広がったのは都市伝説的な要素によるもので、多くの証拠が曖昧か捏造であったことが後に判明しています。もちろん実在するサシガメは存在しますが、発症例や被害が一気に高まった事実は裏付けられていません。人々の「見たことのない恐ろしい虫を信じたい、共有したい」という心理が、ひとつのモンスターを社会全体で創りだしてしまったのです。この騒動は、社会心理がいかにして根も葉もない噂を巨大なパニックへと変えうるのかを教えてくれる、まさしく「怪事件」なのです。
